福井県立大学教授 河原昌一郎
新型コロナウィルスの感染拡大防止対策の一環として、今学期から、多くの大学でインターネットを利用した遠隔授業が行われるようになった。筆者の勤務する大学においても、今学期は全ての授業を遠隔授業で行うこととなり、筆者も教員として遠隔授業の実施に取り組んでいる。遠隔授業のためのパソコン操作は思ったより容易で、資料の説明も簡単に行え、当初は不安に思ったものの、これまでは大きなトラブルもなく比較的順調である。
しかしながら、遠隔授業を開始して直ちに遠隔授業の重要な欠陥に気付かされることとなった。こちらの発言や説明に対する学生側の反応が思うように認識できないのである。学生に一息つかせようと冗談を言っても全くの無反応であり、反応を確かめようがない。これでは、学生の理解度や関心の対象に応じて臨機応変に説明の仕方や内容を調整するというようなことは不可能である。勢い、紋切り型の説明を一通り行って済ませるということにならざるを得ない。
遠隔授業にはこれよりもさらに重大な欠陥がある。教室内のその場の雰囲気を学生が共有できないということである。教室内の雰囲気は、教師の発言、学生間の議論等の内容によって様々に変化する。学生はこれらの雰囲気を共有することによって、他者の考えを知り、自分を再認識する。そして、これらの積み重ねによって、他者との協調性や社会性が培われていくのである。こうした教育上の効果は、教室授業においてはじめて可能であって、遠隔授業に望むことはできない。
もちろん、遠隔授業は単に知識や技術を伝授するということであるなら極めて有用であり、世界中どこにいてもインターネットさえ繫がれば受講が可能である。しかしながら、健全な日本国民を育成するという学校教育の目標は、遠隔授業だけでは実現することができない。
今後、教育現場に遠隔授業を利用するケースも増えるものと考えられるが、上述のような遠隔授業のメリットとその限界を十分に踏まえた慎重な対応が必要であり、安易に教室授業を遠隔授業に代替させるということがあってはならないだろう。
発表時期:2020年8月