コラム

ものごとの進め方に見る民族性

河原昌一郎

 ものごとの進め方には大きく分けて二つの方法がある。「難(かた)きから易(やす)きに」進める方法と、「易きから難きに」進める方法とである。

 「難きから易きに」は、計画的で、確実な実現を重視するものである。たとえばある工事を実施する場合、最も難しい箇所が解決できるか否かがまず検討される。他国と戦争になった場合は、真珠湾攻撃に見られたように、相手の主力や根拠地をまず攻撃する。このように、まず最も困難なことから手をつけるという方法は、「決戦戦略」的な考え方に基づいており、もちろん時と場合によるが、日本人が多く好む方法である。

 これに対して「易きから難きに」は、一般に、物事を段階的または漸進的に成し遂げようとする場合に用いられる。まず外堀を埋め、さらには内堀を埋め、最後に本丸を攻略するというのがこの典型例である。最終目的はあくまで本丸攻略であるが、その時期が明示されるわけではない。

 中国の台湾への対応はこの一つの典型例である。2008年の馬英九政権成立以来、台湾と中国との間では、いわゆる両岸協議が続けられている。ここで中国側が攻略すべき本丸は、両岸平和協定を締結して台湾を政治的に統合することである。これまで両岸経済の自由化を含む約20もの両岸協定が締結され、すでに外堀だけでなく内堀までが埋められつつあるかのような状況に見える。「ひまわり学生運動」で見られたように、台湾住民が両岸協議の行方に不安を抱くようになっているのも無理からぬところがあるのである。

 この事例で見られるように、「易きから難きに」の方法は、「不戦戦略」または「累積戦略」的な考え方が背景となっており、どの程度その効果があるのか、また、いつ最終目的が実現するのか必ずしもはっきりしないところにその特色がある。この方法は、孫子の兵法とも一脈通じるものであり、中国人の好んで用いるところである。攻撃を受ける側はよほど注意しなければ、気がついたときは不利な立場になっているということになりかねないが、警戒を怠らなければ防げないわけではない。心したいものである。


発表時期:2015年5月
学会誌番号:32号

コメントを残す

*

PAGE TOP