コラム

TPPへの中国参加表明について

福井県立大学教授 河原昌一郎

 2020年11月20日にオンライン形式で開催されたAPEC首脳会議の場で、習近平はTPP(環太平洋貿易協定)への参加意欲を表明した。同年11月15日に署名されたRCEP(地域的な包括的経済連携)に継ぐ中国(中共政府)の多国間貿易に関する積極的な動きとして注目されるものである。

 しかしながら、TPPとRCEPとでは自由化のレベルが大きく異なっている。RCEPは自由化のレベルが低く中共政府でも対応可能かもしれないが、TPPには国有企業への支援廃止、民主的労働制度の確立、知的財産権の実質的保護といった中共政府にはおよそ実施できない規定が含まれている。それにもかかわらずなぜ中共政府はTPPへの参加を言うのだろうか。

 これについては、米国トランプ政権が推し進めた中国封じ込め的な貿易政策が功を奏し、中国経済が窮状に陥っているということに尽きるだろう。中共政府が進めてきた一帯一路政策は、各国が「債務の罠」を警戒するようになる等すっかり色褪せたものとなっている。そこで、RCEPを基礎に据え、本来は相手にしたくないTPPにも働きかけ、これを切り崩して隘路を打開することによって経済回復をめざしているのである。

 中共政府は、WTO協定への参加でも見られるように、たとえ約束したことであっても自己に都合の悪いことは実行しない。TPPについても同様と見るべきであろう。中共政府の言うことを安易に信じてTPP加入を認めるようなことがあってはならない。

 TPPは、本来、自由な経済・貿易という価値観を共有する諸国に向けられたものである。今、台湾、英国等がTPPへの参加希望を表明している。とりわけ台湾は経済、地政学等の観点からもその意義が大きい。まず、これら諸国の参加が急がれるべきであろう。


発表時期:2020年2月

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