コラム

自国の虚栄と世論の誘導-中国の新型肺炎対応から-

福井県立大学教授 河原昌一郎

 中国人はメンツにこだわる。これは力の論理が支配する社会では、メンツこそが自己の影響力を維持し、利益を守るために必要なものだと考えられているためである。同様に、中国共産党政府は自国の虚栄にこだわる。虚栄を維持することが、共産党政府を正当化し、国際的影響力を保持し得るゆえんだと考えられているのである。そして、虚栄を維持して自国の正当化を図るために、露骨な欺瞞・隠蔽と世論誘導が行われ、人権無視は顧みられない。

 このことは、武漢市で発生した新型肺炎への中国共産党政府の対応によって、あらためて如実に示されることとなった。共産党政府が新型肺炎を封じ込めるため突如として武漢市封鎖を宣言したのは2020年1月23日のことであるが、それよりも1カ月以上も前から、武漢市では新型肺炎が蔓延し、深刻な状況になっているということはネット情報等で知られていた。そうしたことが公表されなかったのは、共産党政府が、自国民の生死よりも、一定の時間を稼いで自国の虚栄の維持と正当化を図るための方策を考えていたためと考えるほかないであろう。武漢封鎖宣言以降は、共産党政府が全力を挙げて新型肺炎撲滅に取り組んでいるといったことが繰り返し報道され、強引な世論の誘導が図られる。

 WHOは、同1月30日になって国際公衆衛生緊急事態宣言を発出したが、WHOに対しては中国政府から強い働きかけがあった。WHOは、当初、1月22日、23日に同宣言を発出することを検討したが、このときは中国からの反対と圧力もあって時期尚早として宣言を見送っている。1月30日になると、さすがに中国も同宣言の発出を受け入れざるを得なくなったが、WHOのテドロス事務局長は同宣言発出の際に、わざわざ、「この宣言はインフラ整備の水準が不十分な国の支援のために行うのであって、中国国内については中国政府がしっかりとした取組を行っており、中国国内の状況を問題としたものではない」ということを付言した。これでは、WHO事務局が、欺瞞と隠蔽に満ちた中国の行動を正当化したようなものである。

 今回の新型肺炎の問題では中国は明らかに世界に厄災を振りまいた加害者である。その責任は徹底的に追及されるべきだろう。ところが巧みな世論誘導によって中国はいつの間にか被害者にすり替わり、撲滅への貢献者という虚栄まで得ようとしている。世界は眼を覚まさなければならない。そしてチャイナリスクの何たるかを改めて見つめ直し、世界が協調してこのリスクに対処していかねばならない。


発表時期:2020年5月
学会誌番号:52号

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