コラム

中国の食糧不足

福井県立大学教授 河原昌一郎

 今年になって中国の食糧不足に関する記事がしきりに掲載されている。打ち続く洪水被害、バッタ被害、干害等によって、中国の食糧生産が落ち込んだに違いないと見られているためである。中国の食糧不足が注目されるのは、主として、①食糧不足が社会不安・動乱を招く可能性があること、②中国の大量の食糧輸入によって食糧の国際価格が急騰する恐れがあることといった観点からであろう。

 実際、中国農業は①数年前から食糧価格抑制策をとっており農民の作付け意欲が高まらないこと、②農地減少の進行に歯止めがかからないこと、③単収の上昇が限界にきており今後は大きな増加が見込めないことといった事情があり、中長期的には相当量の食糧不足が見込まれている。

 ただ、現在、中国には年間生産量ほどの食糧在庫があるものと推定されており、たとえコロナ禍で食糧輸入が滞り、今年の生産がかなり厳しい状況にあるとしても、食糧不足ですぐに餓死者が出るというほどでもないように思える。もし本当に食糧不足に陥っているのであれば、中共は相応の食糧を輸入しようとするであろうが、現在のところそうした動きは見られない。

 もとより、中共は大躍進時に食糧を輸入せず2千万とも3千万とも言われる農民が餓死するのを見殺しにした前科があり、食糧が不足するからといって直ちに必要量を輸入するというものではないが、現在は十分な経済力もあり、多数の国民を餓死させて社会不安を招くようなことはしないのではないか。

 中国で食糧在庫量は機密とされているので、正確な食糧需給の状況はわかりにくいところがある。もう少し中国国内の情勢を見守っていくほかはないだろう。


発表時期:2020年11月

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