コラム

人権問題でも「数の力」の中国外交

福井県立大学教授 河原昌一郎

 中国・新疆のウイグル族に対する中国政府の弾圧が激しさを増している。2019年6月21日に米国務省は世界各国の信教の自由の状況をまとめて報告書を発表したが、それによれば、2017年4月以降、中国政府は少なくとも80万人以上、最大で200万人以上のウイグル族のイスラム教徒を拘束した。収容所では拷問が横行して死者も出ているとの報告もあるという(2019年6月22日産経ニュース)。

 この報告書を受けて、イギリスや日本をはじめとする国連人権理事会加盟の22か国は、ウイグル族の処遇について中国政府を批判する共同書簡に署名し、2019年7月10日に公表した。同書簡では、新疆における大規模な収容所建設や監視、抑圧を非難し、国際的査察団に新疆への実質的なアクセスを認めるよう、強く促している(2019年7月11日BBC)。

 ところが、この共同書簡に対する中国の反応は異常なものであった。サウジアラビア、北朝鮮、ベネズエラ、キューバ等の37か国が、中国は人権分野で著しい成果を収めており、新疆での中国の対応を支持するという趣旨の文書を国連に提出したのである(2019年7月13日自由時報)。中国がこれらの国に働き掛けてこうした文書を提出せしめたものであることは言うまでもないだろう。これら37か国はいずれも非民主国家で国内での人権保護に問題があり、いわば人権を語るにふさわしくない国ばかりである。したがって、人権問題の解決という観点からすれば、これらの国が提出した文書はナンセンスというほかはない。

 一般的にはそのように受け止められるはずであるが、中国の考え方は異なっている。中国にとって、数の力こそが自己の行為の正当性の根拠なのである。中国は、道義的な事柄の善悪や、正義不正義をもって自己の行為を正当化させようとは決して考えていない。自己の行為がどのような悪であっても、また不正義であっても、「力」さえあれば正当化できると考えるのが中国なのであり、外交ではまさに数の力こそが「力」であると考えられているのである。実際、数の力があれば、国連の総会をはじめ各種会議の結果を左右できる。そして世界は民主国家よりも非民主国家の数のほうが圧倒的に多い。中国はそうした非民主国家を糾合して民主国家を凌駕する力をつけつつある。国際社会は、中国の勢力拡大によって、民主主義もまた重大な危機に直面するようになっているという現実を認識しなければならない。


発表時期:2019年11月
学会誌番号:50号

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