河原論説

「中国に恩を売る」の愚

河原昌一郎

 尖閣諸島の国有化は我が国の純粋の内政問題であり、そもそも外国から干渉されるべき問題ではない。ところが、たとえ異なる見解をとっているにしても、中国はこの問題について、過剰とも思える反応を示し、尖閣海域に多数の公船を派遣して領海侵犯を繰り返すとともに、中国全土で過去最大規模の反日デモを連日扇動して、日系工場や店舗を激しく襲撃し破壊した。こうした行為は、国家としての信義のなさや暴力性を国際社会に示すだけで、経済的にもマイナス面が多く、中国の真意がどこにあったかは必ずしも明らかでない。中国共産党内部の権力闘争が影響しているとの見方も出されている。ただし、少なくともこれらが日本政府への圧力となり、日本政府が何らかの妥協措置を講じるようになることを期待したものと考えることはできよう。

 それでは、我が国はこうした中国に対してどのように対応することが良いのだろうか。また、日本人から見れば理解し難い今回の中国の行為は、中国人または中国社会の性格と何らかの関係があるのだろうか。

 こうした問いに答えるために、まずラルフ・タウンゼント著『暗黒大陸中国の真実』という書の一読をお薦めしたい。実は、同書は1933年にアメリカで発刊されたもので、著者のタウンゼントは上海の副領事をしていた。同書の指摘する中国人または中国社会の性格は、約80年が経った現在でも全く変わるところがない。文化や生活様式の伝統はDNAとしてその社会に組み込まれ、政権は変わっても、古来連綿として現在まで継続しているのであろう。

 ここで、同書から、上記問いの答えの参考となるような記述を拾ってみよう。

 「典型的な中国人評を紹介しよう。『礼には礼で答えるという精神が全くない』。これである。お礼をするどころか、必ず無礼千万な態度に出る。・・・ある国が中国に優しく接したとする。そういう優しさが理解できないから、これ幸いとばかりにその国の人間を標的にする。」

 「条約は当てにならない。アメリカ人の生命財産を守る唯一の手段は明確な政策を示すことである。我慢の限度を明確にすることである。・・・今までは極力、衝突を避け、脅威を与えないような政策を取ってきたが、これからは毅然たる姿勢を示すことは可能である。善意で彼らに接し、多くの慈善事業を提供した。彼らはこれが理解できず、逆に利用し、どんなひどいことをしても構わないと思っている。これはきっぱり止めさせなければならない。」この記述については、「アメリカ人」を「日本人」に、「慈善事業」を「経済協力事業」に読み替えればわかりやすいであろう。

 こうした記述から明らかなとおり、中国側の要求に何らかの妥協をして恩を売ったようなつもりになるのは、全くの愚行であり、逆効果であるということである。中国に対しては、国際法または国内法に基づき、毅然としたいつわりなき態度で接し、妥協はなく、かつ挑発することもなく、国際社会の理解と支持を得ることに十分に配慮しながら対応するほかはないということとなろう。「中国に恩を売る」の愚だけは、決しておかしてはならないことを肝に銘ずべきである。


発表時期:2012年8月
学会誌番号:22号

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