矢野論説

「一帯一路」の実態-平和的発展構想の裏に隠された戦略的意図-

矢野義昭

 習近平政権が新たな発展戦略として喧伝する「一帯一路」構想にはどのような安全
保障・軍事戦略上の意図が秘められているのであろうか。

またその真の目的は何か、提唱の背景となっている中国の国内事情には何がある
のか、軍改革後の軍事態勢との関係はどのようになっているかを検証する。

1 習近平政権の一帯一路構想の概要

2013年 9 月の一帯一路の提案に続き、2013年12月、中央経済工作会議の席上、
習近平は、一帯一路について、「これは党中央が政治、外交、経済社会の発展の全
局面を統括して編み出した戦略的決定であり、新たな開放の拡大を実施するための
重要な措置であり、有利な周辺環境を作り出すための重要な措置である」と述べてい
る(中共中央文献室編『習近平の”四つの全面”にわたる戦略的布石の協調的推進に
関する論述摘要』中央文献出版社、2015年、78頁)。

一帯一路が党中央の重要施策であり、その狙いが対外開放を進め、発展にとり有
利な環境を作ることにあることを明示し、実行への意思を表明している。この段階で
はまだ実行への決意表明にとどまっていたが、その後貿易、資源エネルギー、投資
面などで進展がみられたようである。

2014年11月には、習近平は中央財政経済指導小委員会の席上、「一帯一路は、
対外開放を拡大し深化させるうえで有益である」、「すでに市場、資源エネルギー、投資という3つの方面で、対外開放が緊密に融合するという新局面が生み出されてい
る。対外開放を堅持し、緊密に世界経済と一体化してこそ、初めて持続的発展が実
現する」と述べている(同上書、85頁)。

改めて一帯一路の狙いが対外開放にあること、またその成果がすでに現れており、
引き続き国際経済との一体化を促進しなければ発展はないと、その意義を強調して
いる。

2015年3月の国家発展改革委員、外交部、商務部が出した『シルクロード経済帯と
21世紀の海上シルクロード推進の狙いと行動』では、「時代背景」として、「中国は世界経済と高度に関連している。中国は一貫して対外開放を国策とし、全方位で新たな開放政策を打ち出し、世界の経済体系に融合してきた。

”一帯一路”の建設推進は対外開放の要求を拡大深化させ、またアジア・欧州・アフ
リカ各国の共同の利益を求める動きを進め、人類の平和と発展に重大な貢献をなす
ものであるとしている(余虹『”一帯一路”、中国が進める国際協力: 中国と区域に対す
るその意義はなにか?』世界知識出版社、2017年、195頁)。

一帯一路実現のための「共建原則」として、開放と協力、各国の発展方式の尊重と
異文明間の対話・共存共栄、市場ルールに基づく運用と政府による作用の発揮、互
いの利益の最大公約数を追求し共に勝つことなどの項目を掲げている重点共同事業としては、政策の連携、施設・インフラの共同建設、貿易の拡大、資金の融通、民心の疎通などを挙げている(同上書、196-197頁)。

このうち、資金の融通は「一帯一路建設の重要な基盤」であるが、この点について、
以下の施策をとるとしている。

金融協力を深化させ、アジアでの通貨システム、投資システム及び信用システム
の建設を推進する。

そのため、①沿線国との相互の通貨交換を拡大し、決済範囲を広げる、②アジア
の債券市場の開放と発展を推進する、③アジアインフラ投資銀行を共同で推進し、国
家開発銀行を計画建設し、上海共同融資機構を設立する、④シルクロード基金の運
営を加速する、⑤中国-ASEAN銀行連合体を深化させ、⑥銀行団をつくり共同貸し付
けの仕組みを作り、銀行の与信(授信)方式を多面的にすることなどが提案されている。

また沿線国の政府及び信用等級の比較的高い企業と銀行に対し、中国国内での
人民元債券の発行を奨励する。条件に合った中国国内の金融機関と企業に国外で
発行された人民元と外国の債権を沿線国家において計画資金として使用することを
鼓舞するとしている。

他方では、金融監督面での協力体制を強化し、国内外でのリスクと危機に対する
対処態勢を強化することも謳っている(同上書、200-201頁)。

このような仕組みづくりが効を奏したのか、資金は集まっていると誇示する記述もあ
る。

2016年の中国の外資吸引の規模は世界第3位、新興国間では第1位となり、外国
企業の投資比率はますます増加し、高付加価値のサービス業、先端部門の製造業な
どの外資投資が引き続き増加している。

その結果、2017年3月現在の、中国の外貨準備高は3.01兆ドル、世界第1位とな
り、世界の外貨貯蓄の約30%を占めている。中国の外貨貯蓄の変動要因として、為替
変動、シルクロード設立基金への出資、人民銀行による市場操作などがあるが、中
国は、自国通貨を安値にして競争力を高めることはせず、通貨の流動性はコントロー
ルし、人民元が暴落して他の通貨に対し負の調整を強いるようなことはしないと明言
している(林毅夫『”一帯一路”2.0中国が指導するシルクロードの新たな構造』浙江大
学出版社、2018年、164-165頁)。

しかしこのような当局の表向きの発表が実態を表しているかには、疑問がある。後
述するように、中国経済は、数々の困難に突き当たっている面もある。

2 一帯一路構想の背景となった国内経済の課題

実際には中国経済も一帯一路構想も必ずしも順調に進んでいるわけではない。特
に国内経済には困難な課題が山積しており、習近平もその深刻さを吐露している。

一帯一路構想には国内経済課題の打開のための対外戦略として打ち出されたと
いう側面もある。

習近平は、2014年12月の第18回中央政治局第19回集団学習時の講話で、以
下のように一帯一路をめぐる経済・金融面の課題について、指摘している。

「逐次周辺に足場を築き、グローバルな自由貿易地区のネットワークに対して一帯一
路を伸ばし、積極的に一帯一路を沿線の国家と地区の経済自由貿易区と一体化させ、
我が国と沿線国家の間の協力をさらに緊密にし、往来を便利にし、利益を融合させね
ばならない」。

ただしその際には、「最低ラインをよく考えて、リスクを防ぐことを重視してリスク評価を適切に行い、リスク要因を排除することに努め、まず先に試し、科学的な根拠を確認し、早期に健全で綜合的な管理システムを打ち立て、管理能力を高め、堅固な
安全ネットワークを築かねばならない」と注意を促している(中共中央党史及び文献研
究院編『習近平の総体国家安全観に関する論述摘要』中央文献出版社、2015年、72頁)。

このような指摘がなされている背景には、一帯一路の国際協力事業にはリスク管
理が甘く失敗した事例が多くあり、その対策を早急に立てねばならないとの、党中央
政治局内の危機意識があるとみられる。

他方で国内経済の課題はますます深刻化しているとみられる。習近平は、中央経
済工作会議の席上で、「三つの重大な不均衡」について厳しく指摘している。

一つ目は、実体経済における需要と供給のバランスの構造的な不均衡である。「中
国国内では十分な供給があるが、大多数は中位か低水準のもので、質は低く低価格
であり、投資と輸出の需要構造もそれに応じたものに過ぎない。現在、消費構造は順
調に向上しているが、輸出と投資の需要構造は下降している。供給システムは新た
な需要の変化に適応していない」と、断じている。

さらに深刻な問題として、人口の高齢化が挙げられている。労働人口が減少し、中
間所得層が増加しているが、供給システムがそれに追いつけず、その結果、一面で
は過剰が、他面では不足が生じている。

二つ目の構造的不均衡が、金融と実体経済の間で生じている。利潤を得る能力が
低下している中、構造的な需給の不均衡という矛盾が生じている。そこで、需要の不
足に対応するため通貨を増発し需要を拡大しようとしているが、逆効果になり、増加した通貨は実体経済に回らず、金融システム内で循環し、大量の余剰資金が投機に向
かっている。2014年の株式市場の乱高下にもこのような背景があり、金融業の比重
は上がっているが、製造業の比重は下がっていると指摘している。

ここには、バブル経済に対する危機感が表れている。

三つ目は、不動産業と実体経済の不均衡である。投機の機会を失った余剰資金が
大量に不動産業に向かい、不動産の高騰を招いている。資金は不動産業に集まり、
インフレが進み、実体経済のコスト高を招いているとし、不動産バブルの弊害に警鐘
を鳴らしている。

これらの不均衡解消策として単純な需要拡大策をとれば、かえってコスト高を招くこ
とになる、供給側における新たな構造改革により、需要の伴わない供給をなくし、新たな需要に適応した有効な供給を生み出し、供給面での新たな動態的均衡の実現に努
力しなればならないと強調している(同上書、94頁)。

この指摘は、経済原理に沿った的確なものと言えよう。半面、一帯一路という発展
戦略は、中国の国内経済が供給過剰に陥っており、そのはけ口として中央アジアな
ど、成長しているがまだ高度な経済段階に達しておらず、中国製品の輸出拡大が見
込める地域への市場拡大を狙うという思惑があることを示唆している。

3 党中央の重要施策としての一帯一路構想の位置づけとその目的

これらの紆余曲折を経つつも、一帯一路構想は、2017年の党大会で、党中央の重
点政策として明確に位置付けられた。

2017年10月の中国共産党第19回全国代表大会における習近平総書記の報告
内容が公表されている(本書編纂委員会編著『党の第19回大会報告補導読本』人民
出版社、2017年)。

その中で習近平総書記は、全方位外交の展開の「我が国の発展にとり良好な外部
条件を造り上げるため」の具体策として、「共に”一帯一路”を建設することを呼びかけ、アジアインフラ投資銀行を創設し、シルクロード基金を設立して、最高度の第1回”一帯一路”国際協力フォーラムを開催」することなどを提唱している。

さらに、それによって「人類運命共同体の建設を唱道し、グローバルな統治システム
を変革」し中国の「影響力、感化力、形成力をさらに高め、世界の平和と発展に重大
な貢献をする」と表明している。

この発言は多分に政治的なものではあるが、一帯一路の目的は、中国の発展にと
り好都合な外部環境を作為し、引いては世界の統治システムを変革することにある
のを明らかにしている(同上書、7頁)。

また同大会の習近平の別の版の報告文書である『中国共産党第19回全国代表大
会文書総集編』(人民出版社、2017年)では、「対外開放という基本的国策を堅持し、
国境を開放して建設を進めるとの政策を堅持し、”一帯一路”の国際協力を積極的に
促進し、政策を行き渡らせ、機構を連携させ、貿易を増加させ、資金を融通させ、民
心を交流させ、新たな水準の国際協力を生み出し、共同発展に新たな原動力を増強することの実現に努力しよう」と呼び掛けている(同上書、48頁)。

この発言からは、一帯一路は対外開放方針に基づく政策であり、外国との関係を緊
密にし、貿易を拡大し、資金を呼び込み、共に発展することを目的としていることが窺われる。

同大会の決議では、対外政策の方針として、平和的発展と共栄の原則を堅持しつ
つ、一帯一路を促進すると表明されている。この外交方針は、強軍建設と両岸政策に
おける”平和統一、一国二制度”方針に次いで決議されている(同上書、106頁)。

前述した一帯一路構想の中でも、「台湾の一帯一路への参加を生み出すように適
切に配慮する」との文言があったが、一帯一路構想の中に、当初から、台湾の平和
統一という目的があることは注目される。

武力による威嚇と、貿易・投資・組織と人の交流拡大による依存関係の深化を並進
させ、台湾をできうれば平和裏に統一しようとする、大陸側の意図がうかがわれる。この台湾統一の下工作という目的が、一帯一路構想には当初から秘められていること
には、日本としても警戒を要する。

なお、党規約の内容に「共に交易し共に建設し共に成果を享受するとの原則に従い、
一帯一路建設を推進すること」を含めることに、同大会は承認を与えている。この承
認項目は、「習近平の強軍思想の貫徹」などと並列された、最も重い党規約改正内容
の一つである。このことからも、習近平政権にとって一帯一路構想がいかに重要かが
窺われる。

4 貿易、資源エネルギーの輸送路としてのマラッカ海峡と南シナ海の戦略的重要性

21世紀の海上シルクロード、一路の必要性について、中国の海上安全保障の専門
家は、以下のように分析している。

中国は新たな世界的な貿易路と連接しており、新貿易路の革新的な価値は、戦略
的安全に通じるものであり、海上交通路は線から面に発展している。これらの交易路
は、ASEAN、南アジア、西アジア、北部アフリカ、欧州に連なり、巨大な一塊の市場を形成している。南シナ海から太平洋、インド洋に向かって戦略的国際協力地帯を発展させ、欧州・アフリカの経済・貿易と一体化させることが、長期的発展戦略の目標である。

21世紀のシルクロードの建設は、中国がこの第二の経済体の先導役となり、沿線
の国家と地区の原材料、戦略資源、投資、文化などを包含する、全方位の協力と共
同建設を進めることを可能にしようとしている。

しかし、この海のシルクロードは、中国の戦略的エネルギー資源の海上交通路を
含み、領海をめぐる紛争原因、戦略的海峡、政治的に不安定な地域、海賊多発地帯
などの多くの不安全要素も抱えている。

したがって、海上のシルクロードの経済と貿易の発展と海上運輸の増加に伴い、海上の脅威に対する安全確保も並行的に進めなければならない(呂婿等著『我が国海上ルートの安全保障研究』経済科学出版社、2017年、231-232頁)。

ここには、一路の狙いが、中国にとり死活的な戦略物資の輸入路、経済発展にとり
重要な貿易路の安全及び沿岸諸国への海外市場の拡大にあること、そのためには
海上の安全確保が不可欠なことを述べている。

例えば、対外貿易額は1978年の200万ドルから2012年の3.8億ドルに急増し、そ
の間の年平均伸び率は16.6%に達している。貿易依存度についても、1978年の8.98%
から2012年には46.8%に達し、中国経済の発展の約50%が対外貿易の影響を受ける
ようになっている(同上書、237頁)。

海上ルート上の海峡についての分析結果として、特にマラッカ海峡の重要性が指摘
されている。

マラッカ海峡は、太平洋とインド洋を結ぶ最短の海上ルートであり、いったん遮断さ
れたり、大型船舶の通行が困難になれば、代替の海峡を選ばねばならなくなる。その
選択肢としては、スンダ海峡とロンボク海峡があるが、これらの海峡通航の安全も高
めねばならなくなる。

しかし、両海峡の通行量はマラッカ海峡の1日約80隻に比べ、いずれも約10隻と
少なく、通航を確保できる見通しは比較的に少なく、安全通航に脅威もある点に注意
が必要であると評価している。

また中国の原油の輸送路がマラッカ海峡から西に向かって走っている。ビルマから
雲南に陸上のパイプラインを通すのも、マラッカ海峡を迂回する案として考えられるとしている(同上書、262-263頁)。

パキスタン回廊も同様だが、雲南~ビルマルートも、原油のインド洋からマラッカ海
峡~南シナ海に至る海上輸送路の代替輸送路としての価値から開発の重点となった
ものである。

その意味では陸路の一帯は、安全保障上はもともと、海上の一路の代替ルートと
しての性格を持つ、補完的手段としての位置づけであったと言えよう。

中国の海上安全保障に関する分析文献によれば、5本の海上輸送路が想定されて
いる。①南シナ海~マラッカ海峡~インド洋~ペルシヤ湾・中東又は欧州に至る欧州
ルート、②南シナ海~インド洋~喜望峰~大西洋~米国東海岸に至る米・アフリカル
ート、③大隅海峡~ハワイ~南米西岸又はパナマ運河・米東岸に至る米・東ルート、
④対馬海峡・日本海・アラスカ又は大隅海峡・ハワイ~米西岸に至る米・西ルート、⑤台湾海峡~南シナ海~ロンボク海峡又はモルッカ諸島~豪州に至る豪州ルートであ
る。

また、マラッカ海峡、スエズ運河など世界の主要海峡の安全保障上の価値、原油・
天然ガス、コンテナ、鉱石、食料、石炭などのエネルギー資源の物流交易量からみた
安全保障上の価値についても分析評価している。

評価指標としては、ルートの距離、港湾の能力と数、戦略的価値など基礎的要因、
及び気象、通航環境からなる内部環境、政治・軍事・法律、政策・海賊とテロ・安全保障能力などの外部環境要因の両面から分析評価している(同上書、249頁)。

その結果得られた総合評価では、南シナ海~マラッカ海峡~インド洋を経る欧州
ルートと米・アフリカルートが内外要因ともリスクが高く、米・東ルートは内部的には安全だが外部リスク要因は高いとなっている(同上書、307頁)。

欧州ルートも米・アフリカルートもともに、南シナ海での海賊と軍事衝突のリスクが
高く、中東の政治的不安定とアフリカ周辺海域での海賊のリスクが高いとみられてい
る。

物流交易面では、コンテナと原油・天然ガスの交易ルートのリスクが最も高いと評
価されている。中国のコンテナは世界的に交易されているが、特に欧州ルートと米・
西ルートが多く、インド洋、アフリカでの海賊、テロ、パナマ運河の通峡阻止、カリブ海の政治的不安定、気象などの影響で、リスクが高くなっている。

原油と天然ガスについては、中東、中南米、アフリカを通過する欧州、米・西、米・
東ルートにより交易されており、いずれも、政治的に不安定でテロ・海賊などのリスクが高い。原油の輸入先が偏り、代替の地区や輸入ルートが欠けていることがリスクを高めていると分析している(同上書、312-319頁)。

このような客観的な分析評価結果から見ても、南シナ海とマラッカ海峡の重要性は
明らかである。5本のルートの内、最もリスクの高いルートがこの2カ所を通過しており、かつ原油の最重要輸入路でもある。コンテナの交易ルートとしても重要である。

また、この分析結果からも、南シナ海~マラッカ海峡~インド洋ルートの代替ルート
の必要性が明らかとなっている。

5 脆弱性対策から見た一帯一路に秘められた戦略的意図と真の目的

マラッカ海峡のような脆弱な海峡に安全保障対策として、結論的に述べられている
のは、

①途上国との関係を改善して安全保障能力を向上させること、そのために国際的な
安全保障協力機構を構築し、地域国との外交関係を改善し経済協力を促進すること

②中国が直接面している脆弱な海峡は専門機関により自ら重点的に安全を保障する
こと。

そのために指導的政策を制定し、海警局を海上安全保障を主導する国家の専門
的組織とし、海上安全保障に関する危機時には直ちに対応できる態勢にすること。海
警局と海軍の混成編制の公船艦隊を建設し、長距離の海上安全保障能力の不足を
補い、大馬力で大トン数の装備と人員からなる部隊を編成すること

③脆弱な海峡とその代替案を積極的に開拓すること。そのために、中国の国際的海
上ルートのうち、距離が長く原油・天然ガスの交易ルートである欧州ルートと米・アフリカルートがともに通過するマラッカ海峡が最も脆弱であり、代替案を求めねばならない。

そのための案としてまず、タイのクラ運河の建設がある。

次に、陸上ルートの代替案として1990年代から欧亜をつなぐ鉄道建設を模索して
きたがうまくいかなかったので、2013年に大陸橋をつなぐ”シルクロード”経済帯を提
唱した。

米国はパナマ運河を支配し太平洋・大西洋にまたがる海上交通をコントロールして
いる。これらの海上ルートへの米国の妨害に対抗するため、中国からアフリカ、ラテンアメリカ、太平洋間の主導的地位を固める必要があり、パナマ運河の代替案としてペルーからブラジルに至る鉄道を建設する案もある。

④欧州ルートや米・アフリカルートの沿岸国に海外軍事基地を建設するのは政治的
に微妙な問題なので、沿線の途上国や地区との経済協力を進め、租借、投資、株の
購入、技術移転などの方法で、ルート上の重要港湾、島嶼の経営管理権を獲得し、
中国の海上通航に関連した寄港基地や補給点としての防護力を逐次発展させる。

海外投資は、これまでは民間企業が海上安全に対する配慮無しに無統制に行って
きたが、今後は、民間投資は努めて重要な海峡、運河、水域に重点的に投資させる。
中国の主要な輸出先港湾をもつ国・地区への投資を優先し、重要な交易ルートの代
替港湾に重点投資する。

海外投資の重点対象となるこれらの要域については、徐々に民用から軍事用に転
換させ、しだいに中国の海上安全保障のための海外重要基地にしていく。短期的に
は、新たな建設、株式の買い取りや部分購入方式で要点に対する投資を進め、国内
企業の純経済的行為を装うが、中期的には、純粋な商業的形式により、その港湾の
中国の艦艇に対する補給や小修理を行わせる。

長期的には、新たに港湾を建設しその筆頭株主となり軍民共用を実現する。すな
わち、平時には筆頭株主として正常な事業経営を行い、中国の海上安全の突発事件
が紛争に至った場合は、管理している港湾を軍民がともに使用できるようにし、中国
の海軍艦艇が長期に停泊し、大規模な修理や人員交替、物資の補給に使用するの
を許可する。

⑤荷主の国家が主導する新しい国際安全保障システムを構築する。このため、貿易
量が多く海上安全に影響を受ける中印米豪、中東原油輸出国のような国が海上安全
保障のための国際協力機構を創ることを提案する。日仏のような、海運大国だが貿
易量の少ない国はこの仕組みには加えない(同上書、326-328 頁)。

以上の脆弱性対策では、以下の諸点が注目される。

①南シナ海のような中国が直接面している重要海域の警備は、海警局が主となって
自ら海上安全保障を確保するとの意思を明確にしている。

②交易ルートとして最も脆弱な欧州ルートと米・アフリカルートの特に原油とコンテナの交易路については、代替ルートとして陸路を確保する。そのために、一帯一路構想が提唱されたと明言している。

一路の要請が先にあり、それを補完するために一帯が提唱されたのは明らかであ
り、その際特に、南シナ海~マラッカ海峡~インド洋の安全確保が重視されている。

③一路への進出の最終的狙いは、海上安全が脅かされたときに、平時は民間の港
湾として中国企業が管理している港湾を海軍の基地として長期間使用できるようにす
ることであると明言している。

そのためにまず、沿岸の途上国に合弁、投資、技術協力などあらゆる方法で接近
し、港湾の経営管理権を確保することを重視している。

④米国に対しては、その管理下にあるパナマ運河とカリブ海の通行が妨害される恐
れがあるとして、ペルーからブラジルに通じる鉄道建設を進めるとしている。

半面、貿易量が多い国としてインド、豪州とともに国際安全保障機構の共同創設を
米国にも呼びかけている。この際日本は意図的に除外し、米印豪との分断を画策し
ている。

まとめ

このように、一帯一路に秘められた戦略的意図は以下のようにまとめることができ
よう。

「中国の死活的国益である、南シナ海~マラッカ海峡~インド洋を重点とする海上安
全保障を、中国沿岸部を拠点にできる限り遠方まで自力で守る態勢を固める。それ
が及ばない遠方は、平時から非軍事的手段で一路をスローガンに有事に拠点軍港
化できる港湾を沿岸国に確保するとともに、陸路に代替ルートを開拓する」。

(この論文は、JBPress<jbpress.ismedia.jp/category/jbpress>に掲載したものを転載したものです。)

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