矢野論説

高まる米中対決様相―中台紛争は近いのか?―

矢野 義昭

 中台の緊張がかつてなく高まっていると報じられている。また米中の鍔迫り合いも厳しさを加えている。その背景にはどのような情勢変化や意図があり、今後どのように進展するのであろうか?

高まる中国と米台の緊張

 海上自衛隊は10月4日、10月2日と3日に日本、米国、英国、オランダ、カナダ、ニュージーランドの6か国の海軍が、「自由で開かれたインド太平洋地域」の実現に向けて、互いの作戦能力や海上での協力関係を強化するため、沖縄南西海域で合同軍事演習を行うと発表した。

 さらに英国防省は5日、英海軍の空母クイーン・エリザベスが南シナ海において、友好国である米日豪加、ニュージーランド計5カ国の艦艇および航空機と共同で訓練を行うと発表した。

 これに対し中国国慶節連休の10月1-4日、中国機の台湾ADIZ進入は計149回となった。台湾空軍は中国機が進入すれば戦闘機を対応出撃させて警告放送をする一方、対空ミサイル防衛システムで監視に入ったと発表した。中国は今年に入って200日間、台湾ADIZに進入している(https://gunosy.com/articles/eZxxi, accessed October 19, 2021)。

 特に、米英の空母打撃群が、台湾の南方沖を経由して南シナ海を航行した4日はそのピークに達した。同日、台湾国防部(国防省)は、中国の戦闘機36機、核爆弾を搭載可能なH6型爆撃機12機、その他4機が台湾南西部の防空識別圏に進入したことを受け、台湾軍機を緊急発進させて警告したと説明。夜間にはさらに戦闘機4機が防空識別圏に入り、進入機の数は計56機になったと発表している(『AFPBB News』2021年10月5日)。

米原潜「コネティカット」の衝突事案をめぐる米中の不透明な動向

 そのような緊張状態の最中、米海軍は10月7日に、10月2日午後、シーウルフ級攻撃型原潜のコネティカットが、「インド太平洋域の公海上」において潜水した状態で航行中、何らかの物体と衝突したと発表した。

 米国メディアなどは、米政府関係者の発言を引用して、衝突した場所が南シナ海の国際海域だったとしている。米海軍協会(USNI)のニュースサイトによれば、コネティカットの乗組員11人が負傷した。コネティカットの原子炉などは正常に稼働しており、8日にグアムの米海軍基地に戻ったと報じられている(https://forbesjapan.com/articles/detail/43832, accessed October 19, 2021)。

 今回のコネティカットの衝突事案は、海山か海底油田などの水中構築物に接触したのかもしれないが細部は不明である。

 今年2月に四国沖で発生した「そうりゅう」潜水艦の衝突事案と類似している点があるのかもしれない。例えば、ソナーの死角となる潜水艦の背後から大型貨物船の曳航物などが接近し、浅海を航行中の潜水艦と接触した可能性も考えられる。

 衝突事案発生直後の10月4日、米国の安全保障担当補佐官と中国の外交当局の首脳が直接会談を行い、年内に米中首脳間のオンライン会談を開くことで合意している。中国側は米側からの7日の事案発生公表まで、本事案に関連して全く何も発表していない。

 もし中国側の艦艇と接触していたのなら、米側の機先を制して発表し、衝突の責任を米側に押し付けるとともに、南シナ海での中国の海洋権益を侵害したとして、外交戦、宣伝戦に利用したと思われる。米側も艦艇との衝突の可能性は否定している。

 宣伝戦が行われず中国側が沈黙を保っていたのは、中国側がもともと全く関知しない単なる水中障害物との接触事故とみることもできる。しかし、事故直後に米中高官の接触がなされ、首脳会談開催に合意したこととの関連から見て、中国側も知っていた可能性はある。

 もし「そうりゅう」の衝突事故と類似しているとすれば、中国側の平時の接触事故を装った日米潜水艦に対する破壊工作が連続して生じたとみることもできよう。

 例えば、潜水艦のソナーの死角から、浅い海中を広く覆う大型の曳航物を、海洋監視衛星から得た敵性国の潜水艦の所在地点へGPS誘導により密かに接近させ、浅海を航行中の潜水艦に衝突させて破壊するといった破壊工作の可能性が考えられる。

 中国外務省の趙立堅報道官は10月8日の定例記者会見で、米国が事件の場所や航行の意図、衝突した物体の詳細などを明らかにするよう迫っている。米側が、中国側と直接コンタクトしなければ重大な事故や偶発的な紛争につながりかねないと危惧した可能性は排除できない。

 衝突事案はコネティカットのグアム近海への回航後の10月7日になり公表された。台湾防空識別圏への中国軍機の大量侵入が生じた3日後である。衝突事案が単なる事故だったとしても、南シナ海で最新の攻撃型原潜コネティカットが行動していたことをわざわざこの時期に米側が公表したのは、米側が意図的に行った威嚇による対中抑止行動ととることもできる。

 通常、原潜の行動は最高機密とされ、例え事故があったとしても自ら公表する必要はない。ただし今回は、衝突後コネティカットが公海上を長距離にわたり浮上航行したとすれば、中国側は海洋監視衛星で発見追尾していたとみられる。

 10月9日の辛亥革命110周年記念演説において、習近平国家主席は台湾問題について、台湾統一は「歴史的任務」であり、「いかなる外部からの干渉も許さない」と強調し、「中国人民の国家主権や領土を守り抜く不屈の決心や強大な能力を見くびるな」と警告し米国等を牽制している。

 それと同時に、平和的統一が「台湾同胞を含む中華民族全体の利益に最も合致する」と述べ、両岸の平和統一を追求する姿勢も示し、「平和統一と一国二制度の基本方針を堅持」し、「両岸関係の平和発展を推進する」と強調している。これらはいずれもこれまでと同趣旨の発言である。

 これに対し、総統府の張惇涵報道官は同日、「中華民国は主権の独立した国家であり、中華人民共和国の一部ではない」と述べた上で「国家の未来は台湾の人々の手にある」と強調した。本発言は、昨年1月の習近平主席による『台湾同胞に告げる書』に関連した、一国二制度、平和統一の呼びかけを断固拒否した蔡総統の発言と同趣旨である。

 ただし、今回の辛亥革命110周年記念演説では、これまで表明してきた台湾に対する武力行使について習近平主席は直接は言及していない。そのことは、武力行使の放棄ではなく、単にあからさまに言及しなかったに過ぎないとは言え、中国側の一定の配慮を示唆しているとは言えるかもしれない。

 このことは、米中対決は緊張の極点から、米中が直接対決を避け一定の話し合いに入ることで原則合意した兆候と言えるかもしれない。

強襲上陸演習に見られる狙いと問題点

 今年7月に行われた東部戦区の台湾侵攻第1波となる精鋭部隊の第73集団軍のある旅団内の数百名規模の大隊級の水陸両用作戦部隊の強襲上陸演習の動画が、7月27日中国版SNSの「微博」で公開された。

 動画では、指揮官の命令を受け水陸両用部隊が、水際の敵陣地を水陸両用戦車の火力などで制圧しつつ上陸用ボートで強襲上陸、ドローンを活用して爆薬を投下し敵の地雷原や鉄条網などの障害を処理して敵陣地に突入、火力反撃に備え応急塹壕を掘るといった流れが示されている。

 これらの一連の流れは、戦術原則に従った一般的な強襲上陸の作戦様相である。特色とみられるのは、訓練参加部隊のわが方の赤軍、敵方の青軍ともに、射撃による損傷を表示するためのレーザー発射機を付けた小火器とレーザー受光機を付けた個人用装具を装着していた点である。

 このことは、人民解放軍が大隊級の実員訓練の訓練レベルを合理的客観的に評価しようとして、訓練用装備を充実していることを示している。訓練の合理化効率化と実戦的な訓練の実施は、どの国の軍においても重視されている点であり、習近平が要求している「戦うことができ、戦って勝てる軍たれ」との指針に基づいた実戦的訓練のための改善策と言えよう。

 また、コンピューターによる交戦結果の審判も、レーザー銃による損害付与と一体化して半ば自動的に行われているとみられ、その点でも訓練の近代化が図られているとみられる。このように、台湾への強襲上陸を任務とする部隊の、戦闘能力の客観的評価と練度向上を目指す具体的な訓練システムの改善策がとられていることを誇示するのが、訓練公開の狙いであろう。

 また、米海兵隊に替わる強襲上陸作戦能力を誇示する狙いもあるとみられる。米海兵隊は、2030年を目標とする新たな戦略と戦力構造を示す『戦力設計2030』において、戦車や渡河部隊を全廃し、これまで最優先任務としてきた海岸堡設定のための強襲上陸作戦を任務から外そうとしている。

 米海兵隊が新たに目指そうとしているのは、米海軍の宇宙・サイバー・電磁波戦などの新領域での戦いや対艦・対空ミサイル戦を支援するための目標偵察・誘導などの、海軍支援任務に適合した戦力設計である。

 人民解放軍が、米海兵隊に替わり世界一の強襲上陸作戦能力を持とうとしているとの意思と能力を誇示するという狙いも感じさせる内容である。その心理戦としての狙いは、台湾軍はじめ米同盟諸国に人民解放軍の強襲上陸能力向上を印象付け、戦意を挫くことにあるみられる。

 しかし、強襲上陸作戦の規模は大隊級に過ぎなかった。確かに、上陸した徒歩兵員の装備は近代化されており、無人機による支援も新しい試みである。上陸部隊を支援する水陸両用戦車等の火力支援能力も示されていた。

 しかし旅団級の諸兵種連合部隊の訓練ではあったが、一般的な第一線地上部隊の水陸両用作戦のシナリオであり、近接航空支援、艦艇からのミサイル・火砲による制圧射撃などの、組織的な統合作戦の場面はみられなかった。

 ヘリボーン部隊の強襲や空挺降下などの経空作戦もみられなかった。また戦車など重戦力の揚陸場面もなかった。これらを伴わなければ、米海兵隊並みの本格的な強襲上陸作戦能力があるとは言えない。この点は意図的に見せなかったのかもしれないが、能力的にまだ不十分なのかもしれない。

まだ時間のかかる国産空母「山東」の戦力化

 中国海軍の国産空母「山東」も大きな問題を抱えているのかもしれない。2021年7月2日、米華字メディア『多維新聞』は、中国初の純国産空母「山東」の甲板が破損しているのではないかとネット上で物議が醸されたと報じた。

 海軍司令員が、空母の鋼板建造の予算を着服して逮捕され、そのため空母の鋼板が荷重に耐えられない安物でできているとの報道が、華字紙でなされたこともある。

 しかし今年6月6日には、中国海軍公式の微博アカウントが、「遼寧」、「山東」の両空母からそれぞれ艦載機が離陸する様子を公開している。そのことは「両空母がすでに戦闘力を形成していることを説明するもの」と評価する中国軍事専門家の見方も報じられている(『Record China』2021年7月3日)。

 「山東」はその後、台湾海峡を南下し南シナ海に入っているのが確認されている。甲板の損傷は誤報か、あるいは早急に修理したものとみられる。ただし、「山東」に搭載されている戦闘機は6機に過ぎず、艦載機の訓練事故が相次いでいるとの報道もある。空母艦載機のパイロットの養成が最大の課題となっている模様であり、中国空母の実戦配備にはまだ時間がかかるとみられる。

混迷深まる習近平独裁体制

 習近平は従来に引き続き最近も、腐敗一掃などを名目に軍や公安関係者の粛清や人事異動を頻繁に行い、権力掌握に腐心している。しかし、習近平の権力はまだ安定したとは言い難い面がある。

 最も懸念されているのは、習近平の健康状態である。習近平は脳動脈瘤を抱えており、昨年春に長期間動静不明になったのは動脈瘤手術のためとも華字紙などでは報じられてきた。今回も症状が悪化し、いつ動脈瘤破裂を起こし命にかかわることになるか分からないとみられている。そのために、近く緊急手術が行われると報じられている。

 しかし手術は失敗する恐れもあり、失敗すれば命を失うか植物人間状態にもなりかねない。そのため、習近平は弟の習遠平や自ら抜擢した制服軍人トップの許其亮などの信頼のおける側近メンバーのみからなる特別危機対策室を作ったと報じられている。そのメンバーには、権力闘争を繰り広げている反習近平派の王岐山や曽慶紅は含まれていない。

 軍も、今年の北戴河会議の後、習近平が台湾武力侵攻の可能性を軍に質したところ、軍が現状ではできないと実行の可能性を否定したとも伝えられている。真偽のほどは不明だが、空母「山東」の状況などを見ても、人民解放軍の戦力は見掛け倒しの底上げ状態であり、習近平が要求している「実地に戦うことができ、戦って勝てる軍隊」のレベルにはまだ達していないのが現状であろう。

深まる経済面の低迷

 『国防動員法』などに基づき軍需生産に国費を投じ先端的な研究開発に人材と予算を結集しても、軍用の最先端の精度の高い半導体の国産化は容易ではないとみられている。最先端の半導体の生産は、台湾のTSMCのみが可能であり、TSMCは当初の中国進出を辞めて米国と日本に生産工場や研究機関を作る方針に転換している。中国国内のTSMC工場は精度の低いものしか生産できない。

 欧米諸国も日豪印も、中国の知的所有権侵害、技術提供の強要、一方的な制裁的禁輸措置、サイバー攻撃などによる機密情報窃取などの経験に基づき、中国への緊要な品目の生産依存からの脱却、中国からの自国の企業と資本の撤退、知的財産保護やサイバーセキュリティの強化、中国の軍関係者・企業の国外追放、スパイ防止策の強化などを進めている。

 このため、中国には先端の技術も関連情報も、生産設備や材料も入らなくなってきていると推察される。その結果、これまで開かれた自由貿易市場を利用し、質量ともに飛躍的に成長してきた中国の軍需産業も軍事力も、これまでのようなテンポでは向上しなくなるとみられる。

 中国の経済力、特に軍事力を直接支える先端産業力については、今後質的量的向上のテンポは落ち、枢要な製品は生産も在庫も枯渇し、軍事力が時間と共に劣化し立ち枯れていくことになると予想される。

 特に、先端半導体については、国産化は当面困難であり、備蓄も2年分程度しかないともみられている。そのような先端兵器に必須の部品が枯渇する前に、軍事的冒険すなわち台湾尖閣侵攻を試みる可能性は排除できない。

強まる習近平の戦時統制経済色

 習近平指導部は、経済面で民間経済への党による支配統制と富の簒奪を進めている。ジャック・マーを排除して党のアリババの経営権支配を進め、ディーディー(滴滴)のニューヨーク株式市場への上場を辞めさせるなど、中国民間企業の国際進出を抑制し国内での内部循環を進めようとしている。

 さらに思想面でも、「習近平の新時代の中国式特色ある社会主義思想」の学習を学校教育の現場に命じ英語教育を排除し、私塾を制限するなど、教育の党、特に習近平思想による思想統制を強要している。

 また、子供たちのパソコンゲームの時間を制限するなど、個々の家庭教育への介入まで行っている。これも、子供たちの幼少期からの教育環境を党の統制下に置き、「愛国」に名を借りた「愛党」教育を徹底し洗脳することを目指した動きと言える。精神面とともに、学校での軍事教練も強化されている。

 経済と金融は混乱の度を深めている。中国の民間不動産会社としては2番目の規模とされる恒大集団が負債を抱え、資金繰りに行きづまり倒産の危機が噂され、不動産価格も下落し、不動産バブル崩壊の危機に直面していると報じられている。

 恒大集団の不動産危機を党が救済するかどうかが注目されているが、日本の不動産バブル崩壊の轍を踏まないよう、ソフトランディングを目指すのが基本方針とみられる。不動産会社を規模や負債額に応じてグループ分けし、それぞれの特性や破綻時の影響度などに応じて救済するか否かの政策を決定するとも言われている。

 また、中国の不動産需要は、まだ都市化率が5割強に過ぎず先進国よりも低いこと、結婚の前提として不動産を持つことが習慣化しており、不動産需要はまだ底堅く、バブル崩壊は部分的一時的には起きても、それで中国経済が崩壊するほどにはならないだろうとの見方もある。

 しかしエネルギー事情は深刻である。いま中国全土で停電騒ぎが起きている。その理由としては、中国の発電量の約7割を占める火力発電、特にその主力である石炭による発電が、豪州との関係悪化に伴い豪州からの良質安価な石炭輸入が止まったこと、それに経済回復による需要増加が重なり石炭価格が倍に高騰していること、例年にない大規模な水害に襲われ中国の小規模炭鉱が浸水で採掘できなくなったこと、中国政府が脱炭素政策のため火力発電を抑制気味にしていることなどの要因が指摘されている。

 中国政府は面子を捨ててやむを得ず豪州から約百万トンの石炭を緊急輸入したと報じられているが、それでも石炭不足は解消していない。これから冬季に入り停電が起き、あるいは暖房用の石炭が不足すれば、生活ができず人命にも関わることになるであろう。

 現在でも既に、相次ぐ停電により外国企業も含め、中国国内での自動車などの現地生産が落ち込み、半導体などの精密な製品は不安定な電力供給のため品質を維持できなくなっている。

 さらに、香港などでは習近平政権の思想的締め付けや監視統制の強化、民間企業の経営に対する介入などを嫌い、企業や在留外国人の祖国帰還が相次いでいる。日系企業や長期滞在者も同様であり、サプライチェーンの中国から日本、台湾、東南アジア、インドなどへの移転が進んでいる。

 このように、中国経済は国際社会から分断され孤立する方向にある。習近平政権の経済政策では、内部循環と外部循環の「双循環」によりコロナ後の経済困難を乗り切るとしているが、一帯一路沿いの外部循環はロシア、中央アジアなど一部に限られ、先進国との関係は急激に悪化しブロック化している。

 むしろ、現在の習近平指導部の動きを見ると、自給自足型の戦時統制経済とも言える様相が強まっていると言えよう。

進む戦争準備態勢

 しかし、戦争に備えた諸施策も着実に進められており、その戦力向上を過少評価はできない。中国国内では、台湾侵攻準備ともとられる戦争準備態勢の兆候が、昨年初めころから目立つようになっている。

 各戦区ではその任務や特性に応ずる演習や活動が活発化している。中部戦区では昨年春に大規模な防空演習が行われた。最近も東部戦区で台湾を狙う短距離弾道ミサイル実射訓練、内陸部では中距離・長距離弾道ミサイルの実射訓練が行われている。

 台湾上陸を想定したとみられる上陸訓練も実施され、上述したように、その一部は公開されている。東部戦区の海軍特殊部隊には習近平の部隊訪問と激励が行われ、編成・装備も優先的に増強・近代化されている。空挺部隊の長距離空輸や陸軍部隊の戦区を超えた機動演習も行われている。

 台湾やわが国の尖閣周辺、宮古海峡を通過し、台湾東岸からバシー海峡あるいは日本の本州方向への進出飛行・航海も頻繁にみられる。台湾のADIZや領空侵犯、尖閣周辺海域への海警艦艇の侵入もこれまでにない頻度に増加している。予備役を動員した訓練、あるいは台湾対岸での退役海軍特殊部隊員の乗り込んだ武装漁船の編成も伝えられている。

 法制面でも、『国家情報法』の施行、『海警法』の改正、『海上交通安全法』の施行などが為されており、サイバーやグレーゾーンの戦いに備えた法制が整えられている。

 国内では、エネルギーや食料の高騰が伝えられるなか、食糧や原油の備蓄強化もなされ、コロナ対策もあるとみられるが軍病院の野戦病院化も進められ、軍の個人用防弾チョッキの140万着の調達も官報で公示されている。

 これらは、いずれも台湾・尖閣への侵攻を容易にするための戦争準備措置とみることができる。昨年10月の五中全会で決議されたように、2027年の「建軍100年の奮闘目標」に向けた戦争準備が加速されているとみるべきであろう。

日本も倣うべき台湾の防衛力強化

 台湾は蔡英文総統の下で、急速に防衛態勢強化を進めている。これまで主体だった射程200キロ以内の対空・対艦・対地ミサイルの総数は2千発程度だったがこれを6千発程度に増強しようとしている。

 さらに、射程約1,200キロで三峡ダムも攻撃できる「雄風2E」巡航ミサイル、射程約950キロで南京を攻撃できる「天馬」弾道ミサイル、射程約600キロの「天弓2B」対空ミサイルなど、射程を延伸した各種の新型ミサイルも開発配備中であり、その合計数は約1,000発に上るとみられている。

 これらの新型ミサイルを合わせると、台湾の各種ミサイルの保有数は7千発程度にまで増強されることになり、正にハリネズミのような国防体制をとることになる。

 さらに、米国の支援を得て、通常動力の「そうりゅう」型に似た潜水艦の建造を開始している。将来的には8隻を2024年までに自国で建造し2025年には就役させる予定と報じられており、配備されれば大幅に台湾軍の潜水艦戦能力が向上することになる。

 トランプ政権下で、「M1A2エイブラムス戦車」108両、新型F16V戦闘機66機、「AGM」地対空ミサイル、「ハープーン」対艦ミサイル最大400発、ハープーン搭載沿岸防衛システム100基、「SLAM-ER」空対地ミサイル135発、射程数百キロの「ATACMS」などを搭載した「HIMARS」自走装輪式多連装ロケット砲システムなど、総額1兆8千億円に上る装備の売却に合意している (『日本経済新聞』2020年10月27日)。

 これらのトランプ政権下で合意された武器の一部である、820億円相当の自走砲40両については、バイデン政権下で売却が決定された。今後も米国による武器売却は進められるとみられ、台湾軍の装備は改善されて抑止力は向上するであろう。

 それでも台湾側では、人民解放軍は2025年頃には台湾全島への侵攻が可能な戦力水準になると評価している。中国は台湾の24倍のGDP、15倍の軍事予算、11倍の陸上兵力数を持ち、その格差はこれまで時間と共に拡大してきた。今後、中国経済の成長率が鈍化しても、共産党独裁が続く限り、軍事費はそれ以上の速度で伸びるとみられ、戦力バランスは時間と共に中国側に有利になると見られる。

 しかし、前述したように、中国の習近平体制は内外にさまざまのリスクを抱えており、彼らにとり必ずしも時間が有利に作用するとは言えず、ここ数年で戦力と独裁権力のピークに達するかもしれない。

 その場合は、内部矛盾を逸らし自らの独裁権力の基盤を固めるため、ピークに達する数年後に、習近平が台湾全島侵攻に乗り出す可能性は高まることになるであろう。

 いずれにしても、今後とも中台の戦力バランスと米国の対応、それが日本に及ぼす影響には最大限の注目が必要である。

 また台湾有事は日本有事でもあり、日本も台湾に匹敵する本格的な防衛力強化に取り組まねばならない。そのためには、防衛費を少なくともNATO並みの2パーセント以上に高め、軍事研究開発に長期集中投資を行う必要がある。

 また、民間企業、関係機関と一体となり、AI、量子技術、先端半導体、コンピューター、情報通信技術、ロボット、バイオなど軍民両用の先端分野やサイバー・宇宙・電磁波などの新領域を重点に、防衛産業基盤を強化しなければならない。それとともに、米台豪印、欧州諸国などとの国際的な協力関係を深めるべきであろう。

(本論は、https://jbpress.ismedia.jpからの転載です。)

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