河原昌一郎
周知のとおり、日本は石油の約8割を中東に依存しており、その石油を運ぶシーレーンは南シナ海を通っている。南シナ海は、いわば日本の大動脈が通る海域であり、その動向によっては日本の命運をも左右する重大な問題となり得る。その南シナ海で、おそらく多くの日本人が想像しているよりもはるかに速いスピードで、中国による人工島建設、軍事施設化が進んでいる。
米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)は、 南シナ海の島礁における中国の埋立工事の状況を衛星写真を通じて随時公表しているが、その写真を見て短期間での大きな変化に驚きを禁じ得なかった。中国は南沙諸島で約10カ所の島礁を占拠しているが、そのいずれにおいても大規模な埋立工事を施し、人工島の建設を進めている。2014年前後にはいずれも点のような存在にすぎなかった岩や環礁が、この2~3年のうちに大きな人工島に変貌し、軍事施設を含めた各種施設が建設されている。特に、ファイアリ・クロス礁およびスビ礁には3000m級の滑走路が、ミスチーフ礁には2600mの滑走路が建設され、これらの島礁は特にビッグ3と言われている。こうした軍事施設の建設によって、中国の南シナ海における軍事力は格段に強化され、少なくとも周辺諸国との差は隔絶したものとなった。
ところで、こうした中国の埋立工事は、海洋環境等の問題もあって、2016年7月の仲裁裁判所判決では違法とされていたものである。国際法に違反する行為がどうして堂々と行われ、国際社会はこれを阻止できないのか。オバマ政権の無策も指摘されるところであるが、ただオバマ政権の問題ではなく、国際社会が全体としてこうした事態を深刻に受け止め、中国に対処する方策を考えなければならない。南シナ海の軍事力を背景とした中国の威嚇はすでに始まっている。ベトナムは、2017年7月、自国の排他的経済水域にある鉱区で石油の掘削作業を始めたところ、中国から南シナ海の人工島からベトナムの掘削基地を攻撃するとの強烈な脅しを受け、掘削の断念を余儀なくされた。
こうした事態が、今後、南シナ海全体に及び、日本のシーレーンも時によって脅かされる可能性が高い。これに対してどう対抗するのか。米国の航行の自由作戦だけでなく、日本の海上自衛隊の配備も視野に入れた各種の対応策を考える時期が来ている。
発表時期:2018年5月
学会誌番号:44号