コラム

次に戦争が起こるのは?

河原昌一郎

 戦争の原因は文明の衝突だと言う人もいる。確かに、最近のイスラム国と欧米諸国との戦闘行為は、外観上、イスラム文明とキリスト文明が衝突しているように見え、また、イスラム国は戦略的意図から「異教徒に対する聖戦」を唱え、そうした感情を煽っている。

 しかしながら、言うまでもないことであるが、異なる文明が併存するというだけで戦争が起こることはない。文明の併存には、対立的、友好的、無関心といった態様があろうが、このうち戦争に結びつくのは対立的併存の場合だけである。しかも、対立的であっても戦争になることは現実には少なく、対立したまま併存状態となることが一般的である。

 むしろ戦争は同じ文明の中で起こることのほうが圧倒的に多い。ペロポネソス戦争、中国の春秋・戦国時代、英仏戦争をはじめとする欧州諸国間の戦争、日本の戦国時代等、歴史上枚挙にいとまがない。これらのことからも、戦争の原因が文明の相違とは直接の関係がないことは明らかであろう。

 それでは戦争の原因は何か。戦争が起こるのは、通常、国家(またはそれに準ずる組織)間のパワー・バランスに変化が生じたときである。ただしパワー・バランスの変化は、戦争の必要条件であって十分条件ではない。それに国家指導者の侵略意図または防衛意図(すなわち何らかの戦争開始意図)が加わって初めて十分条件となる。ドイツのポーランド侵攻は、それ以前にドイツが軍事的に強大化してパワー・バランスが変化し、それにヒトラーの侵略意図が加わって引き起こされたものである。

 それでは、現在、世界でパワー・バランスに最も大きな変化が見られる地域はどこだろうか。この質問には特に考えるまでもなく、中国の急速な軍事力・国力の増強に伴う東シナ海・南シナ海における変化が最も顕著なものであることは誰の眼にも明らかであると思う。そして中国は、ピルスベリ著『百年マラソン』でも強調されているとおり、常に世界制覇を目指している国である。5年後、15年後、さらにもっと後かもしれないが、東シナ海または南シナ海で次に戦争が起こる可能性は極めて高い。それにしては日本人の危機意識は低すぎはしないだろうか。国家を挙げてこの危機に取り組む時期が来ているのである。


発表時期:2016年2月
学会誌番号:35号

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