河原昌一郎
2016年12月1日、中国は「発展権白書」を公表し、中国では発展権が重視され、その実現が図られていることを主張した。引き続き、同年12月4日には、1986年12月8日に国連総会で採択された「発展の権利に関する宣言」の採択30周年を祝う国際セミナーを北京で開催した。同セミナーの開会式では習近平が寄こした祝辞が代読されるなど、中国政府が発展権を重視している姿勢があらためて内外に伝えられた。
発展権とは1970年代になって国連で人権の一つとして主張され、議論されるようになった権利であり、発展途上国は経済、社会、文化等の面で発展する権利があり、その国民にはそうした発展による利益を享受する権利があるというものである。ここで注意を要するのは、従来の人権とは異なり、個人とともに国家が発展権の主体とされていることである。
国家が発展権の主体となった場合、たとえば国家が何を社会、文化の発展と考えるかによって、独自の社会や文化を有する民族や個人の権利を害する恐れがある。このため、発展権は、国連総会での宣言採択にもかかわらず、国際的に確立した人権としては認められていない。
それにもかかわらず中国が発展権をことさらに取り上げ、それを普及させようとしているのは、発展権という概念が中国にとって極めて都合の良いものであるためであることは言うまでもないだろう。
中国は思想・信条の自由、表現の自由、政治的自由等の基本的人権を認めていない。このため、中国の人権状況は、一般的に極めて劣悪な状況にあるものと評価されている。ところが発展権という怪しげな人権を振り回すことによって、中国で人権は大いに改善されていると主張することができる。近年の経済成長は、そうした主張を根拠づけることとなる。また、国内諸民族に対する人権抑圧は、この発展権によって覆い隠すことができる。
ここまで述べれば明らかであろうが、発展権とは、中国が人権分野でダブルスタンダードを作ろうとしている試みにほかならない。中国は他の分野でもそうであるが、ある基準が自国に不利な場合、必ず自国に有利な別な基準を作り出そうとする。中国のダブルスタンダードや偽善には、常に注意が必要である。
発表時期:2017年2月
学会誌番号:39号