福井県立大学教授 河原昌一郎
台湾の国民党の中国共産党支部化が進んでいる。2019年11月13日に、国民党は、2020年1月に予定されている立法委員選挙(総統選と同時に実施)の比例代表の候補者名簿を発表したが、この候補者名簿が大きな反響を呼ぶこととなった。台湾の立法委員は定数が113人であり、そのうち小選挙区から73人、比例代表で34人、原住民代表として6人が選出される。前回2016年の選挙では、比例代表で民進党から18人、国民党からは11人が当選した。したがって、比例代表の名簿登載順位が10位以内であれば概ね当選圏にあるとされるが、今回の国民党の候補者名簿ではその10位以内に韓国瑜派がずらりと顔を並べたのである。このことは国民党内にはもはや韓国瑜に対抗し得る勢力が存在していないということを見せつけることとなった。韓国瑜は2020年1月の総統選候補者であり、北京政府の強い影響下にあるとされる。現在の国民党主席である呉敦義の意見はほとんど通らず、呉敦義自身の名簿順位を何とか10位にとどめることができたほかは韓国瑜に完敗したものと見られている。馬英九はすでに過去の人とされ、前国民党主席の朱立倫はほとんど影もない。
2020年1月の総統選で、もし韓国瑜が当選すれば言うまでもなく国民党主席を韓国瑜が兼ね、国民党は韓国瑜の党となるだろう。もし当選しなくても、敗北の責任を呉敦義に押し付け、韓国瑜派の立法委員の力も借りて韓国瑜が国民党を支配するようになることが考えられる。いずれにしても、国民党の共産党支部化は避けられない。共産党支部化して北京政府の指示どおりに動く国民党が台湾で政権を掌握したら何が起こるであろうか。少なくとも現在の香港以上の大きな混乱を招くことは必至である。現在のこうした国民党内の動きに対しては、国民党支持者の間でも批判が強まっていると聞く。しかしながら、共産党の関与が強まる中で、国民党の再生は可能なのだろうか。台湾の二大政党制は崩壊しつつある。共産党支部化した国民党が政権を握れば不可逆的な事態が進行する可能性が強いのだ。台湾の民主主義は後には退けない重大な危機を迎えようとしているのである。
発表時期:2020年2月